株式会社Smart119|安心できる未来医療を創造する

救急隊、医療機関の立場から、500名以上が視聴参加し、意見を交換

千葉大学発医療スタートアップ企業である株式会社Smart119(本社:千葉県千葉市、代表取締役社長/CEO:中田孝明)は6月25日、『次世代救急医療シンポジウム Vol.2』を「現場滞在時間短縮に向けての取り組み」をテーマに、オンラインにて開催しました。


IMG_4444.JPG▲カリフォルニア、茨城県、東京都を結んだオンラインで開催。全国に約720ある消防本部のうち、半数を超える400以上の組織から、500名以上の視聴者が集い、インタラクティブな意見交換がなされたシンポジウムとなった。

今回のオンラインシンポジウムは、特別講演として米国カリフォルニア州救急救命士・藤原 翔氏を迎えた『アメリカ(Los Angeles)の救急活動について』を実施。一般講演として救急救命士・外来看護師 松本 拓氏による「in ホスピタルからのメッセージ」、茨城西南広域消防本部・救急救命士 吉田光汰氏による「迅速な搬送が奏功した急性心筋梗塞の一例」、大阪府八尾市立病院救急科 山本康之医師による「救急医が求める電話連絡とは」という3つのテーマを取り上げました。当社からは、救急医療支援システム「Smart119」のシステム概要と発展性の実演解説をし、パネルディスカッションでは、救急隊、救急医のそれぞれの立場からの討論で締めくくられました。

全国に約720ある消防本部からは、半数を超える400以上の組織から参加いただき、医療機関、自治体の関係者を含めて、前回を大幅に超える500名以上の視聴者となりました。「現場滞在時間の短縮」をテーマにしたプログラムでは、視聴者からの質疑応答が215件寄せられました。救急に携わる方々と登壇者で闊達な意見交換の場となり、現状の課題と解決方法、これからの展望を、参加者の皆様と共有することができました。

◆プログラム
<Session1>

特別講演、米国カリフォルニア州救急救命士・藤原 翔氏による「アメリカ(Los Angeles)の救急活動について」では、アメリカにおける救急活動について「現場滞在時間は10〜15分であり、医療機関への搬送時間は7〜8分」と、具体的な数値を提示しながら、医療機関側の受入体制が日本とは異なり受入要請や交渉を行うのではなく、受け入れることが前提で連絡をするため「長時間の現場滞在が問題にはなっていない」と解説されました。地域管轄医療機関「Base Hospital」へ受入連絡をすること、連絡する相手は、専門知識のない事務員が担当することはなく、座学や研修を受講し資格を持つ「MICN(Mobile Intensive Care Nurse)」であること。また、1件あたりの費用が16〜35万円におよぶことから救急隊も傷病者も救急搬送に対する受け止め方が異なることや、医療機関への距離に応じて使える薬の種類が異なること、報告書がかなり前からペーパーレスになっており、救急隊と医療機関での情報共有の中で作成されて、帰署後の書類作成がないことなど、日米の状況の違いが紹介されました。

IMG_4452.JPG▲米国カリフォルニア州救急救命士・藤原 翔氏

<Session2>

一般講演① 救急救命士・外来看護師 松本 拓氏による「in ホスピタルからのメッセージ」では、院内看護師の視点から、現場滞在時間の短縮は、患者の予後に大きく関わる点が挙げられました。曜日や夜間などによっては、対応できる医療機関が限られること、診断結果によっては、根本的治療のために、より高次医療機関への転送となること、そして、傷病者本人のみの場合は、各検査に対して「同意書」へのサインが得られず、処置・治療が遅れる可能性がある、という医療機関内の実情からの課題が挙げられました。救急隊の立場から、検査と治療への同意が必要となるために、キーパーソンとなる家族などの連絡先を聴取して医療機関へ伝えて欲しいことが挙げられました。

IMG_4473.JPG▲救急救命士・外来看護師 松本 拓氏

一般講演② 茨城西南広域消防本部・救急救命士・吉田光汰氏による「迅速な搬送が奏功した急性心筋梗塞の一例」では、現場滞在時間は、現場に到着した救急隊員の聴取・説明・観察・電話連絡といった一連の業務内容が、滞在時間に反映することから、傷病者情報処理の仕方に着眼し、「聞き方」「伝え方」のスキル向上が必要であることを提言しました。救急隊員には論理的思考の習得が求められるので、同消防本部では、令和元年度より「救急学術研究等作業部会」を発足しました。急性心筋梗塞で救急搬送された71歳の女性の事例が挙げられ、発症から37分で医療機関に搬送し、早急な治療を受けることによって、1週間後には、独歩退院したケースが紹介されました。救急車への収容、ドクターカーとの合流調整、傷病者情報の伝達を同時並行的に行うことによって、現場滞在時間を短縮し、傷病者の社会復帰率向上へ結びついた好例です。同消防本部の現場滞在平均時間は、平成30年は17.6分でしたが、取り組み開始後の令和元年で16.9分、令和3年では15.7分と短縮されています。傷病者情報を収集する「聞き方」、整理し医療機関と共有する「伝え方」が、いかに重要であるかをポイントにした講演でした。

IMG_4481.JPG▲茨城西南広域消防本部・救急救命士・吉田光汰氏

一般講演③ 大阪府八尾市立病院救急科・山本康之医師の「救急医が求める電話連絡とは」は、傷病者を受け入れる救急科医師からの提言です。「救命」の責務を担う救急隊の困難さを理解した上で、医療機関への連絡は「聞いて、状況がイメージできる」ことを求めました。現況(発症状況、容態など)、救急出動要請、蘇生処置の有無判断、病歴や服用薬の情報を通じた傷病者に対する正しい理解が、根底に必要であることを指摘しました。観察点が絞られて、注視すべき事柄が明確になり、搬送中の急変を想定できることにより、医療機関は受入体制を構築しやすくなります。救急隊と医師が、救命における役割を正しく分担し、上下関係を作らないことが信頼関係を築き、本シンポジウムのテーマ「現場滞在時間の短縮」につながると強調しました。また、マスク、ヘルメットを着用している緊急事態の中で、医師は救急隊員の顔と名前を覚えられない実情も指摘しました。病院連絡時に、名前の申し出があれば「この声は、あの隊員」と医師や看護師が特定でき、人間関係が構築しやすいとしています。

IMG_4497.JPG大阪府八尾市立病院救急科・山本康之医師

<Session3>

「Smart119システム概要と今後の発展」と題して、株式会社Smart119より、解説と実演が実施されました。救急隊と医療機関の間でリアルタイムでの情報共有を実現するシステムであること、具体的な機能として「受入要請」「傷病者引継書作成」「活動報告書作成」の3点を挙げて、救急隊と医療機関の業務負担を軽減し、それぞれの現場活動を効率化可能であることを紹介しました。視聴参加者から「導入後に特別な業務が発生するのか」、「受入要請では、医療機関数は上限があるのか」など多くの質問が寄せられました。本システムに医療機関数の上限はなく、タブレット上で自動作成した傷病者情報をもとに、一括一斉送信で受入要請ができることを説明し、山梨県で実施した実証実験結果から、現場滞在時間短縮が実現したことを提示しました。Smart119を正式導入した千葉市消防局のケースでは、コロナ禍の緊急事態下の救急搬入多発も影響し、正確な数値は提示できないが、救急搬送の効率化がされた事例が多くあり、受入要請から搬送先医療機関決定までわずか15秒で済んだケースが多数あったことを報告しました。一括要請、ホットラインに自動配信される機能が「救命」に寄与した一例です。

<Session4>

パネルディカッション「現場滞在時間短縮について」では、パラメディックホース氏(救急救命士 ITLS前版・AHA G2020テキスト日本語翻訳チーム)の司会で、特別講演者の藤原 翔氏、一般講演から山本 康之医師、松本 拓氏、また視聴参加者を交えて、次の4点について討論が繰り広げられました。

・現場滞在時間の実際

現場到着から医療機関到着に至る時間短縮の可能性を探りました。問題は「救急隊における傷病者情報の不備、医師と看護師の不十分な意思疎通」と仮定し、まず両者共通の事例として、傷病者の家族や関係者が、積極的に情報提供しないことが挙げられました。松本氏は「治療の同意書への署名が得られないことがある。認知症の高齢者に付き添われた家族が重要性を認識していない例など、医療側と家族で、緊急性の捉え方に乖離がある」と実情が話されました。視聴参加者からは「受入要請時間」が問題点として最も多く挙げられました。通話自体と保留にされる時間が長いこと、また一次対応するのが事務員で、医師や看護師に直接話せないことが、時間を要する原因と指摘がありました。山本医師は「夜間など、救急科外の看護師が対応する時があります。救急スキルがないため、余計な情報を聞き取り通話時間が長くなる。また専門外の医師の場合は、治療ができる範囲を知りたい、また思考したいことから通話と保留時間が長くなる」と実情を語り、松本氏は「事務員から看護師、そして医師と伝言になるため、時間がかかり情報の精度も落ちてくる」と院内課題を指摘しました。

・海外における現場滞在時間の実際

アメリカでは現場滞在時間が重視されていない点について、「アメリカと日本では、救急隊員ができる医療行為の領域に差がある。根本治療ができる医療機関へ搬入する、というのが日本の在り方」であり、「現場で治療をするアメリカでは『滞在時間』は意識されない」と分析しました。藤原氏は「現場で、医療行為について、自ら判断し実施することから、滞在時間は意識しません」と結論づけます。病院連絡については、「日本では『交渉』『依頼』。アメリカでは『行きます』と告げるだけ」と異なる点を挙げました。病院連絡へのフォーマットについて、藤原氏は「群ごとに制定されている場合が多いが、カリフォルニア州は共通のフォーマットがある」と答え、続けて「日本で問題視される受入要請拒否は、アメリカではほとんどない。病院の状況は、携行するタブレット端末に表示され、受入可能な病院へ連絡できる」と、医療機関への連絡の実情を語りました。また「電話連絡の資格を有するMICNの存在が大きく、治療に必要な情報を聞き出し、整えて医師に伝える仕組みができている」と院内へも言及します。これに対して松本氏は、「日本の場合は、受け方の資格化、また研修もされていない」と、大きな違いとして指摘します。

 ・現場滞在時間短縮への取り組み

パラメディックホース氏は「全ての傷病者情報を整えてから病院連絡をするのではなく、同時進行で行う取り組みをしていた」とします。視聴参加者からは「同時進行で短縮を図っている」「骨伝導のヘッドセットを用いることで、電話連絡と現場の声を同時に行なっている」「出場時から、受入要請を実施する取り組みをしている」という意見が寄せられました。特に、3つ目について山本医師からは「ER病院での経験だが、事前に連絡を受けるケースはある。第三次救急病院では、受入体制を整えて待機できる」と事前連絡のメリットを話します。ただし、詳細な傷病者情報を得られないと受入要請もできない場合もあり、「患者取り違えを防止し、入院後の体制を考慮する必要がある」と松本氏は言います。また、山本医師からは、医療機関では「救急隊の現場滞在時間」に課題があること自体を知らない側面があり、意識改革が必要と指摘しました。

・救急隊から病院側への要望

まず「救急外来でも受け入れられない医療機関」が存在する理由について、山本医師は「専門外で対応した場合に、万一訴訟となったことを考えてしまう」と理由を話します。「医療機関の多忙時には、救急隊員への対応が冷たい」という意見が視聴参加者から寄せられました。松本氏は「人員が少ない夜間や、検査の手配、家族への説明などが重なると、どうしても業務に忙殺されてしまう」、山本医師は「医療機関間で受入数を共有していないことがある。度重なった場合には再三な気持ちになってしまう」と医療機関の実情を言います。藤原氏は「カリフォルニアのERには仲間意識が強くある。これは、救急隊へ対してもある。冷徹な対応をされた経験はほとんどない」と、救急隊と医療機関はチームであってほしいと語ります。

・医師(病院側)から救急隊への要望

山本医師は「互いに誠実な対応ができる信頼関係を構築したい」、松本氏からは「詳細の傷病者情報など、互いにコミュニケーションを十分に取っていきたい」と、話します。「相互尊重で、信頼関係を持っていきたい」とパラメディックホース氏の言葉で、締めくくられました。

IMG_4488.JPG

今回のシンポジウムを通して、「傷病者のために」の思いとともに、救命率向上につながる「現場滞在時間短縮」への取り組みには、救急隊と医療機関の信頼関係が不可欠であることが、視聴参加者を含めて、再認識されました。

当社の救急医療支援システムSmart119の機能が、救急隊の現場滞在時間短縮に貢献し、救急隊と医療機関の信頼関係醸成に寄与することも確認されました。

登壇者や視聴者から、闊達な意見交換の場として、オンラインシンポジウムの定期的な開催の要望を得ました。当社としましても、シンポジウムを通じ、皆様のご意見を反映した救急医療へ貢献するシステム開発に結びつけたいと考えています。 

お問い合わせはこちら