株式会社Smart119|安心できる未来医療を創造する

千葉大学発医療スタートアップ企業である当社では、創業時からのミッション「テクノロジーと柔軟・独創的な発想で救急・急性期医療現場の課題をスマートに解決し、より多くの患者さんを救う」を実現するために、2022年事業を推進してまいりました。

本年の事業方針として掲げていた救急医療情報サービス『Smart119』の全国展開については、東広島市への新規導入が決定し、山梨県、札幌市では実運用を視野に入れた実証実験を実施しました。また川崎市では、AI技術活用による救急隊の現場到着時間短縮に向けた実証実験を行い、効果が証明されました。新型コロナウイルス感染妊産婦入院調整支援システム『COVI-CO』の活用については、「かかりつけ産科医による妊婦情報の登録機能」を追加し、入院調整のさらなる迅速化に寄与しています。千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学と共同で実施してきた「AI予測診断アルゴリズム」の研究開発においては、新たに「ICU入室患者の死亡率、在室期間」「急性冠症候群」に関する研究を実施。研究論文は、国際科学誌『Scientific Reports』(英国、Nature Research社発行)に掲載されました。そのほかにも、さまざまな機関と連携し、より良い救急医療の実現につながる共同開発、研究を進めています。

こうした実証実験、研究開発の成果、そして救急医療が抱える課題解決の認知を広げるべく開催したシンポジウムには、全国から多数の消防・医療機関、自治体関係者が参加し、多くの関心が寄せられるとともに好評をいただきました。

当社代表取締役/CEOの中田孝明は、次のように述べています。

「"救急現場に最新技術を導入し、柔軟かつ独創的な発想でより多くの命を救いたい"という思いで起業したSmart119は、設立5年目に入りました。2019年に採択されたAMED(日本医療研究開発機構)課題である救急医療予測アルゴリズム研究開発は、実際の国内データを用い、病院前救急医療における「脳卒中」「急性冠症候群」のAI予測に関する研究成果を論文発表し、次の社会実装に向けてステップを踏み出しています。またICU領域でもAI予測の第一弾論文発表もしております。そして病院前AIに関しては川崎市と連携し「救急車の最適配置」という新たな方向性の開発にも挑みました。救急医療情報システム『Smart119』は、東広島市と導入が広がり、各地で実証実験を行なっています。22年1月に実施した山梨県の実証実験では、搬送先医療機関決定まで7割の時間短縮が示されたほか、札幌市でも10月より実証実験が開始しました。本年はさらに国内に広く展開し、飛躍を遂げたいと考えています。またコロナで現場の課題に対して開発した『COVI-CO』は、より迅速な入院調整を可能としております。2023年も社会や現場のニーズに合わせたプロダクト開発、機能の充実化、そして、誰もが安心できる未来医療実現のための研究開発に尽力してまいります」

■2022年実績
【1:「救急医療情報サービス Smart119」の全国展開】
●実証実験の実施
(1)山梨県
2021年に採択された『TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業』において、1月、東山梨消防本部、山梨県立中央病院、山梨厚生病院、山梨大学医学部附属病院参加のもと最終段階の実証実験を実施。「救急隊の病院選定・交渉時間を7割以上短縮できる」という結果を得ました。消防本部、各医療機関に実施したアンケートから『Smart119』が搬送困難の解決に有望であること、県民の安全安心な暮らしに貢献するものと認識されました。

(2)札幌市
2021年に採択された『Local Innovation Challenge HOKAIDO』において、10月より札幌市で実証実験を実施中です。実運用を視野に入れ、市内の救急隊5隊、医療機関8カ所で実際に『Smart119』を使用し、より良い運用方法を検証、救急活動の効率化を目指します。「マルチプラットフォーム化」の実施、「電子署名機能」の採用など、機動性を高める新しい試みも導入しています。実証実験は2023年3月末に終了予定で、山梨県に続いて有効性を証明する結果が残せるものと期待しています。

(3)川崎市
6月に締結した「AIを活用した救急隊の現場到着時間短縮に向けた実証実験に関する連携協定」に基づき、9月末まで実証実験を実施。市内の救急車や救急隊を、より効率的に配置するAIアルゴリズムの活用の可能性を探るべく、過去の救急出動データの解析を機械学習の手法などを用いて行いました。その結果、AUC値(*1)が「0.88」、再現率が「0.82」で、一定以上の精度で救急需要が予測可能であることが検証されました。また、救急車の適正配置により、救急隊の現場到着短縮が図れるかどうかのシミュレーションでは、「最大3分14秒」短縮できる可能性が示されました。

*1:AUC (Area under the curve) 分類のアルゴリズムの精度を示す曲線値。閾値「0.8」を上回ることで高精度とされている。

●新規導入
東広島市
東広島市は、「救急隊の現場滞在時間の短縮」「救急隊の病院滞在時間の短縮」「救急報告書作成時間の短縮」「病院間(転院)搬送の削減」「各種システム間のデータ連携」の主に5つの救急課題の改善、救急及び市民サービスの質向上を目的に、『Smart119』の導入を決定しました。2023年4月より運用を開始します。運用開始後も現場のニーズに合わせたアップデートに努め、より質の高い救急医療体制構築をサポートしていきます。

【2:『新型コロナウイルス感染妊産婦入院調整支援システム COVI-CO』の活用】
「患者情報等の共有機能(かかりつけ産科医による妊婦情報の登録機能)」を新たに追加し、運用を開始しました。千葉県内のかかりつけ産科医が持つ妊婦情報(分娩歴、分娩予定日、基礎疾患、合併症・産科異常等)とCOVID-19臨床症状の情報を、周産期母子医療センター等に事前共有できる機能で、『COVI-CO』を活用した入院調整のさらなる迅速化に寄与します。

【3:AI予測診断アルゴリズム対象症状の拡大へ向けた研究開発】
(1)ICU AI予測診断アルゴリズム
千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学および同大学院人工知能(AI)医学と共同で、機械学習を用いてICU(集中治療室)入室患者の「生命予後」「在室日数」を予測する研究を実施。当社は機械学習を用いたビックデータの解析と、予測アルゴリズムの開発を担い、高い精度で予測できることが確認されました。ICU入室から早期に患者の正確な予測を把握することは、ICUにおける患者ケアの質や臨床成果の向上、より適切な治療方針の決定、医療資源の配分の適正化などにつながります。本研究論文は、国際科学誌『Scientific Reports』(英国、Nature Research社発行)に掲載されました。

(2)急性冠症候群AI予測診断アルゴリズム
日本医療研究開発機構(AMED)の研究開発課題「先進的医療機器・システム等技術開発事業『救急医療予測研究開発』」に採用された「急性冠症候群AI予測診断アルゴリズム」の研究を、千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学と共同で実施。急性冠症候群における心筋梗塞などの疾病に関し、搬送前に発症の有無や病型を予測するAI予測診断アルゴリズムを確立し有効性を実証しました。初動段階の診断精度が高まれば、早期に的確な急性治療を開始し、患者の転帰改善に貢献できる可能性があります。本研究論文は、国際科学誌『Scientific Reports』(英国、Nature Research社発行)に掲載されました。

【4:共同研究開発】
●共同開発
(1)CRT(毛細血管再充満時間)測定装置
ICU AI予測千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学、千葉大学フロンティア医工学センターと連携し、令和4年度「千葉県医療機器等開発支援補助事業」に採択された、CRTを正確に測定できる携帯型装置の共同開発を行いました。試作機および実装予定のアルゴリズムの開発は完了し、現在は性能や効果を測定するためのテストを実施中です。将来的に、医療機器として市販化を目指します。

(2)災害情報の可視化
日本放送協会(NHK)、千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学・千葉大学災害治療学研究所と共同で行ってきた「救急集中治療・災害時情報共有プラットフォーム研究」の成果をもとに、社会実証を行い、災害情報を可視化する機能を開発しています。NHKが報道した災害情報の変遷を、時系列でインターネットの地図上に記録・表示することで、新旧の災害事例を一目で俯瞰・比較できるものです。直近や未来の危険予測に役立て、防災・減災を目指します。

●受託開発
一般社団法人日本集中治療医学会より委託を受けた『JPICSデータベースアンケート調査システム』の開発を完了しました。ICU退室患者の健康状態の確認、後遺症の有無を調査するWebシステムで、5医療機関においてテスト運用を開始しています。本システムで得られた調査結果を分析することで、新型コロナウイルス感染拡大以降、ICU入室患者の急増により対策が課題とされてきた「集中治療後症候群(PICS)」の予防や、抜本的解決に貢献する可能性があります。

【5:シンポジウム】
(1)『次世代救急医療シンポジウム 2022 in山梨』
山梨県における『Smart119』実証実験の成果報告会として開催しました。会場、オンライン配信を合わせて、全国250以上の消防・医療機関、自治体から500名以上の関係者が参加・視聴し、多数の質問が寄せられるなど、救急医療分野への要望の多さ、Smart119への期待の高さを確認することができました。

(2)『次世代救急医療シンポジウム Vol.2』
『次世代救急医療シンポジウム 2022 in山梨』の好評を受け、「現場滞在時間短縮に向けての取り組み」をテーマにオンラインにて開催しました。全国の消防本部の半数を超える400以上の組織から500名以上の視聴者が参加。視聴者からは215件の質疑が寄せられ、登壇者と救急に携わる方々で活発な意見交換がされたほか、現状の課題、解決方法、これからの展望を共有する有意義な場となりました。

■2023年事業方針
【1:救急医療情報システム『Smart119』の国内展開を拡大する】
東広島市への導入拡大、各地での実証実験実施を踏まえ、来年度も全国規模で広く展開し、さらなる拡大を目指します。また川崎市で行ったAI解析による「救急車適正配置」の取り組みを受け、救急以前の「救急需要」へのAI予測アルゴリズム活用を促進し、救急搬入時間短縮、自治体の救急体制の構築支援を通じて市民の安心感の向上に寄与してまいります。
論文を発表した「脳卒中」「急性冠症候群」「ICU」の AI予測診断アルゴリズムについては、『Smart119』へ組み込むことを目指し、必要な開発等を着々と推進中です。来年度は、社会実装に向けてさらに歩みを進めていきます。

【2:医療事業継続支援『レスポンサム(respon:sum)』の充実】
2020年以降、コロナ禍におけるニーズを受け、院内クラスター防止を目的とした「職員健康管理機能」、感染症妊産婦搬入困難の解決を目的とした「母体搬入・入院調整機能(COVI-CO)」を開発しました。その経験を活かし、災害時、平常時、あらゆる局面においての医療事業継続をより手厚く支援できるシステムの開発、機能のアップグレードに努め、『レスポンサム』の充実化をはかります。

【3:事業展開拡大に伴う人員の充実】
「誰もが安心できる未来医療の実現」に向けて、既存事業をより拡大し、全国へ展開していくことに加え、新たな開発プロジェクト等も進行しています。事業拡大に伴い、プロジェクトを支える人員のさらなる充実化に注力し、医療機関、消防機関、自治体のご要望に対してさらに柔軟に応えてまいります。

お問い合わせはこちら