株式会社Smart119|安心できる未来医療を創造する

国際科学誌『Scientific Reports』へ掲載

千葉大学発医療スタートアップの株式会社Smart119(本社:千葉県千葉市、代表取締役社長/CEO:中田孝明)は、千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学と共同で、急性冠症候群AI予測診断アルゴリズムの研究を実施しました。本研究開発課題は、日本医療研究開発機構(AMED)の「先進的医療機器・システム等技術開発事業『救急医療予測研究開発』」に採用されております。このたび、本研究の成果をまとめた研究論文(筆頭著者:竹田雅彦、責任著者:中田孝明)が、国際科学誌『Scientific Reports』(英国、Nature Research社発行)に掲載されたことを公表いたします。

SR01.jpg本論文は、急性冠症候群における心筋梗塞などの疾病に関して、患者を医療機関へ搬送する前に発症しているか否かとその病型を予測するAI予測診断アルゴリズムを確立し、有効性を実証したことを報告したものです。なお、本アルゴリズムに関連して、株式会社Smart119は救急搬送支援システムに関する特許を千葉大学と共同で出願中です。

◆開発研究の背景
三大疾病(「がん」「急性冠症候群」「脳卒中」)のうち、「急性冠症候群」「脳卒中」は、救急搬入数に占める割合が多い疾病です。「急性冠症候群」は、冠動脈が突然塞がることによって発症します。塞がる位置と量に応じて「心筋梗塞」か「不安定狭心症」が発症し、一般的に心臓発作と呼ばれる前者は、血液供給が途絶えることにより心臓組織が壊死する病気です。死亡率を低下させるためには、早期に的確な治療を開始することが不可欠です。

「急性冠症候群」は、初発症状のほとんどが日常生活の中で突然起こり、発症者の大半が救急搬送されるため、救急隊員は初動対応に大きな役割を担っています。初動段階における診断精度が高まれば、受入医療機関において早期に的確な急性期治療を開始することが期待できるため、患者の転帰改善に貢献する可能性があります。

救急隊の診断精度向上のために、救急車内への「12誘導心電図」「生化学検査」の導入がこれまで検討されてきましたが、多額の機材導入コストがかかること、救急隊員への長時間の訓練が必要になることなどがネックとなり、広く普及に至っておりません。そのため、患者の「バイタルサイン」「症状」と同様に、特別な機器やトレーニングがなくても簡単に得られる「3誘導心電図」のデータを用いた正確で安定した早期予測精度を持つ新しい診断ツールが必要とされていました。今回、次の3点を満たすAI予測診断アルゴリズムの開発に着手しました。

・救急患者の症状から、救急隊の診断精度を上げる
・専門医および設備を持つ医療機関においての適切な急性期治療
・患者の転帰改善

◆国際科学誌『Scientific Reports』掲載
Prehospital diagnostic algorithm for acute coronary syndrome using machine learning: a prospective observational study
https://www.nature.com/articles/s41598-022-18650-6

◆開発趣旨
<予測アルゴリズムの目的>
患者の「バイタルサイン」「3誘導心電図」の数値および「症状」などの病院到着前データから、急性冠症候群およびその病型を予測診断する。

<データ形成>
・2018年9月1日より、千葉市内10医療機関、千葉市消防局の協力からデータ収集
・収集データ数は、急性冠症候群(心筋梗塞および不安定狭心症)の疑いがある救急患者732人(20歳以上の成年)
・対象データ数は、663人のうち欠損値などを理由に除外した後の555人。
・特徴量(*1)は、救急患者のバイタルサイン、3誘導心電図の数値変化および症状(24時間以内の胸部などの痛み、不快感、圧迫感)からなる

<アルゴリズム算出手法と検証>
・9つの機械学習分類器で43変数を使用し解析(*2)
・555人のデータから、Nested Cross Validationという手法を用いて解析・モデルを作成し検証を行った
・AUC値(*3)はVotingを用いてテストデータで「0.861」の結果を示した。救急現場での実用性を考え、予測に必要な変数をXGbootを用いて43から17に削減しても、「0.864」と高精度を維持した。また、重要因子解析では、心電図モニターでのST変化、ST上昇、心拍数 が重要因子であること明らかにした。

Fig3.jpg▲17個の特徴量を用いた急性冠症候群の予測診断アルゴリズムのSHAP(*4)値。アルゴリズムの高い予測精度に伴い、SHAP解析においても、急性冠症候群の診断に寄与する有意な特徴を示した。特徴量は重量度に応じて降順に配置している。特徴量とSHAP値の関連は、予測因子の影響(正負)を示し、値の程度は、赤(高)と青(低)をプロットして描かれている。『Scientific Reports』掲載論文(Sci Rep.2022:12:14593)より抜粋。

Fig1.jpg▲予測アルゴリズムの特徴量とAUC。点線の縦線は特徴量「17」で、テスト用(黃)では「0.859」の最大値を示している。この時点で機械学習用(青)のAUC値は「0.881」を示した。高精度とされる閾値「0.8」を共に上回っている。『Scientific Reports』掲載論文(Sci Rep.2022:12:14593)より抜粋。

◆急性期医療におけるAI予測診断アルゴリズム開発実績
「脳卒中」の正確で安定した早期予測性能を目指し開発した「脳卒中AI予測診断アルゴリズム」は、急性期医療における有効性を実証したものとして、研究論文(Sci Rep.2021:11:20519)が2021年10月15日に国際科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。このアルゴリズム開発に引き続き、急性冠症候群に対応したものが本AI予測診断アルゴリズムです。

◆実用化に向けて
救急医療支援システム「Smart119」への実装を見込んでいます。急性期治療の向上を目指し、救急車に装備されるタブレット端末用アプリに、急性冠症候群AI予測診断アルゴリズムを用いた診断機能を追加し、実用化に向けて実証実験を続ける予定です。

*1:文字通りに特徴を指す。予測アルゴリズムを作成する際に、病歴や症状などが特徴量にあたる。特徴量は、精度に有効なものを精査する「特徴選択」を行い、アルゴリズムの正確性に寄与する特徴量数を見出す。
*2:8つの機械学習分類器、XGBoost, Logistic regression, random forest, Support vector machine(SVM) (linear), SVM (radial basis function), Multilayer perceptron, Linear discriminant analysis, light gradient boosting machine とアンサンブル学習の Voting という手法で解析。 今回のVotingは、8つの学習済みモデルに関して多数決などで推論の結果を決めている。
*3:Area under the curve 分類のアルゴリズムの精度を示す曲線値。一般的には、「0.8」を上回っていると、医療現場で実用的とされている。
*4:SHAP(SHapley Additive eXPlanation)。モデルの予測結果に対する特徴量の寄与を求めるための手法。ある特徴値の増減が与える影響を可視化している。

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